月輪の都 『靄』

2004年8月3日
明けの明星 燦然と、未だ暁 醒めやらぬ。

獣は 狩られ、鳥は 墜ち、
魚は 干からび、虫は 串刺し。
命なくとも 姿あり。
やがて 朽ちて 果てるまで。

あわれ 無惨な 躯を晒し、眠りを 妨げ、呪いを吐く。
浅い 眠りを 繰り返し、
僕は 何を 待つのだろ。

たった一つの 生だけど、
うたかたの 夢幻と、詠み語る 歌人。
誰もが それを 知りながら、
素知らぬ振りで、咲き誇り、
止まらぬ 時は、かりそめと、誰もが 知りておりながら、
誰もが 口を 噤んでる。

夢中になれるほど、素直でなく、
溺れられるほど、愚かでない。
悔いるほど、老いてなく、
走れるほどに、若くない。

他人を殺める 恐ろしさ。
他人を傷つける 怖さを 君は、知っているのだろか?
良心の呵責を 持ち合わせて いなくても、
怪我の痛みは 知るだろに。

穏やかな気候に 疼き、
灼熱の太陽に 刺され、
凍る冷気に 潰されて、
癒えぬ傷を 抱えていく罪。

ほんの 小さな 傷跡でも、
ひきつる 醜い 痕跡でも、
忘れなければ 同じ事。
足の裏の 傷のように、 指紋を 裂いた 指先でも、
手当の甲斐なく 治りがたく、
薬を飲んでも 気休めで、
誰も変わっては くれないよ。

何一つ、僕はこの手に 持たぬまま。
いつか この世を 去るのかな。

何一つ、僕はこの手に 抱かぬまま。
いつか 消えて ゆくのかな。

何を 求めて いるのかさえも、
僕は 見失って 久しいや。
教えて 欲しい 事がある。

誰の言葉を信じたら、僕は悔いずに すむのだろうか。
誰の言葉を用いたら、僕は泣かずに すむのだろうか。
誰の言葉をなぞったら、僕は迷わずに すむのだろうか。

閉じ籠められた 箱の中。
狭い社会の 先導者たちが、
拳をあげて 熱弁揮い、これが秩序と 黒板叩く。
そんな指導が 幅きかせ、これが正義と 鉄槌下し、
数値主義の 時代を生きた。

教えて欲しい事がある。
今の子供たちよりも、今の僕たち 大人にこそ、
教師といえる 人が要る 。

やがて社会で、鍛えられるだろうと 無責任に 放り出し、
それでも 仕方ないのだと、許す社会も あったもの。
 
閉じ篭った 箱の中。
よく似た価値観、かき集め。
上手に笑うさ、皮 一枚。
先達らを 見てごらん。
みんな 歪んだ 微笑さ。
腹芸長けた者だけが、見事に幅を 利かせてる。

教えて欲しい 事がある。

子供の国は 何処なのか。
賽の河原は 何処なのか。
桃源郷は 何処なのか。

夜の暗い 世界に 行きたい。
陽の明るい 世界に 生きたい。
無防備に、転寝できる、世界が あれば。

教えて欲しい 事ばかり。
何処へいっても、同じだと。
逃げたい時こそ 言われる言葉。

確かにそうかも しれないけれど、
ここより違う 環境だって、きっとあるはず。

惰性で 仮面を 被り続けて、心が捩れてしまうより、
ゼロから作る 選択だって、きっとあるはず。

しがいのある、我慢もあれば、徒労もあって、
それでも、判断基準が曖昧だから、
下手に そこで 頑張っちゃうんだ。

ちりちり、ちりちり、頭の奥で、
ずくずく ずくずく、痛む内臓。
これは何色信号だろう?

気付いて いるけど 気付かぬふりで
僕は、もう ずいぶん 眠ってないや。

ねぇ 君は 知っている?
ねぇ 君は 気付いてる?
ねぇ 君は 見えている?
ねぇ 君は 聞いている?

心が歪み、傾いで軋み、亀裂 捩れ 破断。

何が見える?
何が聞こえる?
何か感じる?

処方箋の ありかを 探してる。
治療法を 求めてる。

けれど 同時に 全て 終われる 薬も 欲しがっている。
だけど 自分で 終わらせる きっかけが なくて、
緩やかな 死の 階段を 登ってる。
君の心を 盗んで 逃げる、遥か遠い、地の果てまでも。
君の心を 障って 逃げる、彼方の月の 裏までも。
君の心を 乱して 逃げる、追って来れない、彼岸まで。

君の腕を 掴んで 逃げる、切り落としてまでも。
君の小指を 絡めて 逃げる、赤い糸が 見えぬから。
君の記憶を 犯して 逃げる、僕を 忘れて しまわぬように。

そんな 酷い幻影を、僕は 見続けてる。
そんな 危ない妄想に、僕は 浸り続けてる。

だけれどね、そんな残酷な一瞬を、
だけれどね、どこか酔いしれる一瞬を、
だけれどね、ただ、思い描く一瞬を。

無邪気な子供のように、善悪を知らぬ子供のように、
倫理を学び 受け入れなければ、
誰もが持つ 囁きじゃないのかな?

痛みを知らず、人を刺し。
痛みに麻痺して、人を刺し。
痛みを忘れて、人を刺し。

そうして 僕たちは、生きてるじゃないか。
あんなに 上手に 忘れ去って しまえるなんて。
生きるために、生き残るために、
人は皆、苦しみより、逃げ去って、亡くしてしまうじゃないか。
昨日と同じ この場所で
風にまかせて タバコをぷかり。
「ああ 夜なんだ」と 思ってる。

昨日も 同じ この場所で
表情変える 空眺め
「ああ また 夜だ」と 思ってた。

月は 雲は 宵闇は、姿を変えて 現れて、
漂う風も 星も 違うけど、
時計の針は 同時刻。

何時もと 同じ 立ち位置で、
日中の余韻を 今、この夜に 求めてる。

眠れ 眠れと 指令を下す 
体の疼きを 押し殺し、
ただ、ぼんやりと 仰いだ天に 求めてる。

ほんの ひとつの 溜息を、
ほぉっと、ひとつ 深呼吸を、
心の底から 吐ける場所を。
『どうして そんな事を したんだい?』
だって、お腹が 空いていたんだもの。
食い荒らされた作物が、無残な姿で 畑に転がる。

『どうして そんな事を したんだい?』
だって 寒くて 眠られなかったんだもの。
残り火燻る焼け跡で、鼻をつくよな 臭いが蔓延る。

『どうして そんな事を したんだい?』
だって きらきら 綺麗だったんだもの。
羽を毟られ 蠢く玉虫、何百 何千、足元 大地を這いずって。

『そうして そんな事を したんだい?』
だって、ちっとも 動かなくなったんだもの。
死斑を浮かべた 小さな骸、
あんなに可愛がられて 空き地の茂みに 捨てられて。

産まれたままの 無邪気さで、可愛い子猫 鳴いている。
おやおや、一体 どうしたの?
訳知り顔で 近づいて、そっと 顔をのぞき込む。

鳴いてばかりの 子猫ちゃん、涙が零れる 事もなく。
犬のお巡りさん、困ってしまって、わんわんわわん。
わんわんわわん。

何も知らない 第三者、興味本位で 聞くけれど、
何も解決できないよ?

机の上の 秀才は、資料の山で 判断を、
罪は 罪と 裁けても、人は 人が 裁けぬように、
渇いた響きの 分析で、救われる事など 何も無い。

子猫は 悲しくて 鳴くでなく。
子猫は 善悪の存在すら 知りもせぬ。
「私は ついぞ 日輪を、この眼に 拝んだ事が無い。」
月に 還った カグヤが云った。

「私は ついぞ 月輪を、この眼に 映した事が無い。」
日陽に 飛んだ ヤマトのタケルが云った。

錦を纏って 岩屋の中で、カグヤの奏でる 琴の音が。
肩も顕に 炎獄の中、剣を鍛えし タケルが振るう 槌の音が。

地上より 眺むる 月陽の 表情は、
天空高くに 昇りゆき、ゆきて 帰らぬ住人の、
微かな追憶、過ごした日々を、
想い返す 心内。

愛しき人は 果ての大地で 空見上げ、
逢いたい人は 時空の彼方 記憶の底に。
昇る事も 降りる事も 叶わぬ願いに 袖濡らす。

月を止める 鎖のように、陽を支える 塔のように、
離れぬように、墜ちぬように、
地上に 穿つ 楔が軋む。

孤独な 番人たちが、恋うる 地上に 降り注ぐ、
光は 君の涙かな。

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目覚める度に 悲嘆するなら、
いっそ 眠りを 忘れてしまえ。
目覚める度に 泣くのなら、
いっそ 涙よ 枯れ果てよ。
目覚める度に 捜すなら、
いっそ 記憶よ 消え失せろ。

ああ、けれど。
せめて 夢で 逢いたいと、
願う心も 捨てられぬ。

ぽっかり空いた 心の空所、
褥の隣と 同じもの。
ひんやり冷たい シーツの上に、
ある筈の無い 温もり探り、
あるじを無くした 枕を抱いて、
いっそ 正気を 手放したいと、
こんなに せつに 祈るのに。

独り 眠る 夜が来る。
独り 叫ぶ 夜が来る。

あなたの骸を この手に抱いて、
去りゆく 温もり 感じても、
涙は 不思議と 零れもせずに、
瞬き 忘れて 呼んでいた。

あなたの空虚を この手に抱いて、
私の 温もり 伝えても、
涙は 溢れて 零れ落ち、
睫は 重く 閉じている。

独り 寝入る 夜が来る。
独り 凍える 夜が来る。

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罪の重さを 知りては 改め、
傷の痛みを 知りては 悔い、
病の苦しみ 知りては 顧み、
死別の悲しみ 知りては 願う。

塩の柱に 閉じ込めて、
蜜の甕に 深く沈めて、
氷の棺に 横たえて、
土中の石室 座らせて、 
嘗て栄えた 栄華の都、
砂漠の廃墟に 埋めましょう。

光を拒絶す 深海に、
ゆらゆらゆれる 長い髪。
生きては 行けぬ 頂に、
閉ざした瞼に 睫が濡れる。
決して 触れる事のない、
水晶 玻璃の向こう側、
白い肌は 透けるよう。

姿 形を留めおく、手段 術方 数あれど、
御魂 この世に 留めおく、法術 しかと ありはせぬ。

罪の重さを 秤り、
傷の痛みを 堪えつつ、
病の苦しみ 引きずって、
死別の悲しみ 祈りつつ。

あなたを この世に 留め置く。
それが 久遠の望みなら、
あなたを この世に 繋いで行く。
それが 消せぬ 過ちならば、
あなたを この世に 引き止める。
それが 穢れた 悲願なら、 
あなたを この世に 呼び戻す。
それが 叶わぬ 摂理なら、

滅びるべし、と 呪うだけ。
滅してしまえと 怨むだけ。

私だけを 置き去りに、
私だけを 残したままに、
冷たい骸 仰臥する。  
留める術なく 溢るる涙、
流れ零れる その訳を、
君は 心に 刻むだろ。

留まる事無く 数珠繋ぐ、
生まれ出でる 生命の様を、
君は その眼に 刻むだろ。

神秘の地底湖 湛える先に、
遥か 天空 雲の城。
眩しき紺青 海の褥に、
深い碧色 大河の淵に、
君の睫を 濡らすもの、
君は その手に 受けるだろ。

すべては 留まる 事 ならず、
すべては 流れる 事 ならぬ。
すべては 留める 事 ならず、
すべては 流す 事 ならぬ。

流す 涙は 心のままに。
留めぬ 思いは 心のままに。
君よ 生きて化石に ならぬうち、
君よ 閉ざした扉を 押し開き、
君よ 時を超えて 微笑み給へ。

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深い心の奥底に 疼く言葉の 奔流を、
呟き言葉に 置き換えて、
ぽつりぽつりと 綴ってみたら、
闇夜を照らす 月燈の如く、
ひそり さやけさ そそぐ瞬き、
天上頂く 麗し都の 影となり。

光を孕む 白い回廊 石畳、
祈りの塔へ 続く道。
高い城壁 遥かに遠く、都をぐるりと 取り囲み、
砂塵も 人も 災いも、容易に 越える事は無し。

空に月輪 浮かぶころ、蜃気楼を従えて、
砂漠をさまよう 湖に そっと姿を 映したら、
祈りの都が 目を覚ます。
何処より ここへ 流れきて、
ここより 何処へ 行き去るか、
それは 誰にも 解らない。
都を創る 石ですら、何処より 来たか 解らない。
重く巨大な城門が、音もたてずに 開くとき、
光の道が 現れる。
それは 祈りの塔へと 伸びる道。
仄かに光を 湛えて導き 月へと向かう 回廊に。

豪奢な創りの 街並みに、古き神々 刻まれて、
覚えておるかと 問い掛ける。
かつて 部族毎に 神がいて、
栄枯盛衰 共にした。
滅んだ部族の 神々が、そっと集う この都。
何時か 私の 愛し子が、迎えに来る日を 待っている。

部族最期の 独りとなれば、
神を送りに 都を目指す。
部族最初の 独りとなれば、
神を迎えに、都を目指す。

何時か 私の 愛し子が、再び 目覚める 時を待つ。
あなたと寄り添い 歩いてみたい。
時に他愛の無い話、笑いながら してみたい。
気にも止めない 時間の中で、 
空気のように 感じてみたい。

大きな背中 小さな背中、くっつけあって もたれあい、
ぽかぽか 日溜まり 転寝誘う まどろう時は 緩やかに。
ことりと一つ 腕が落ち、
起こさず 起こされる こともなく
いつしか 二人 寝そべって、
心地の良さに また一睡。

幼き日々の 甘い乳の香、母の胸。
夕焼け小道に 繋ぐ掌 逞しく、じんわり温もる 父の手と。
夏の走りの 桃の味、 祖母がもいで きてくれた。
冬の終わりの 暖炉の前で 抱えてくれた、祖父の燻らす 煙草の煙。
やんちゃな喧嘩は 目覚めとともに、兄弟 団子にじゃれあった。

瞼 閉じれば 昨日のように、
思い出される 鮮やかな、かつて あった あの日々が、
私の素地を 形どる。
当たり前に 傍らにあった あの日々が、
いつまでも 続くと 信じて 疑わなかった あの日々が、
私の欲求を 形どる。

あなたと 創って 行きたい、あの日々を。
二度と 取り戻せぬ ものならば、
あなたと 二人 始めたい。

あなたも 亡くした 者ならば、
私も 亡くした 者だから、
二人 傷には 触れぬまま、
疼きを 隠して ゆきましょう。

あなたと私が 二人して、やがて父に、母になり、
やがて 祖父に 祖母になり、
目には 見えない 傷痕を、
互いに 曝けて 喋れるまで。

あなたと 寄り添い 歩いてゆきたい。
終わらぬ 争い 戦禍の中で、
二人 揃って 生き抜けたなら、
あなたと 静かに 暮らしてみたい。

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月が 満ち満ち、潮が満ち。
月の 道々、潮の道。

夜陰に そっと 漕ぎ出せば、
うねりは緩く 紺青の、絨毯 眼下に広がって、
てらてら 輝き 色を変え。
眠る魚は ゆらゆらと、
珊瑚は 子らを 送り出す。

たぷん たぷんと 波に乗り、
ぎぃこ ぎぃこと 櫂を漕ぎ、
浮かんで寝む 海鳥達の、合間を縫って するすると。

松明一つ 持ちもせず、
どこに行くかも 知りもせず、
船影 一つ、ゆぅるりと、  
人影 一つ、ゆったりと、
急きも 慌ても せぬふうに、
ただただ 静かに 流れてく。

潮に逆らい 行くでなく。
潮に乗って 行くでなく。  

月が指した ミチしるべ。
潮が向かう ミチしるべ。

やがて 着けば それでよい。
どこに 着けば それでよい。

それが 果ての浄土でも、
それが 渦下の海底でも、
それが 恋女房の懐だって、
それが 敵の足元だって、

月のしるべに 導かれ、
潮のしるべに 導かれ、
生まれも 逝くも 活きも 死するも、
しるべに 添うて ゆくばかり。

ゆぅらり ゆらゆら 船は揺り篭、
ゆぅらり ゆらゆら 海は母、
ゆぅらり ゆらゆら 月は父。

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少しずつ、少しずつ。
見えていたものが、見えなくなって。

少しずつ、少しずつ。
出来てたことが、出来なくなって。

少しずつ、少しずつ。
柔らかかったものが、硬くなって。

少しずつ、少しずつ、
憶えていたことを、思い出せなくなって。

常に、何時も、うとうとと。
覚えも無いのに 睡魔が 襲い、
常に、何時も、上の空。
駄目だと 解かって いるのにね。

確か もっと 活発で、
確か もっと おおらかで、
確か もっと やりたいことがあって、

何時も何時も、時間が 延びればいいと、
確かに そう 想っていた筈 だったのに。

こんなにも、一日の時間が 長く 思えるのにね、
どうして、年月だけは、早いのだろう。

歳を重ねると いうことは、
こんなにも、こんなにも、
身も心も 萎縮して いくことなのかな。

何が 自分を 縛っているのか、
それすら わからぬ 迷路の中で。
行くも帰るも 解からぬままに。
空だけ 眺めて 奇跡を待って、
どうして こんなところで 僕は、
しゃがみこんで いるのだろ。

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月輪の都

2004年6月1日
http://page.freett.com/akito_haruka/index.html
完成形↑
未完成↓
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もしかしたら、当分 「ふりぃちけっと」でのアップになるかもかも〜・・・。

月輪の都 『月虹』

2004年5月30日
君の心の 中にある、 峠の見えぬ 坂道を
  ぽつりぽつりと 登り行き、 傾斜の消えた 瞬間が、 
此処は 頂き、雲の上。
足元 定めて、顔を上げ、 虹の袂を 捜しに行こう。
   
揺らめく 太陽、 月は 背に、
夜の帳が 天空を、 波の 如くに 広がれば、
姿も 露に 麗しの、 蒼き月が 道標。
 
  遥かに 聳える 断崖に、 やがて 目指して 降り来る、  
光の階段  昇る為。
 
遮るものさえ 無き光、 矢の如くに 降り注げ。
君の体を 突き抜けて、影すら 消さん ばかりまで。
 
帰る道すら 此処になく、辿りつたと 想っても、
座標は 常に 零点で、記す答えに、「解は無し」。
 
しじまに伸びた 虹の先。
刃の光は 幾重にも、月へと 渡る 太鼓橋。
 
君の 心の 中にある、生まれ持ちたる 魂に、
深く 刻まれ 疼くもの。
  
総ての 生命を 支配する、 月へと 還る 本能に、 
激しき 郷愁、 涙する。
 
月へと 延びた 虹の橋。 
彷徨い 求めて 捜すもの。
去りゆく 時の流れをば この身に受けて ひしひしと。
されど 思い返すに 早すぎて、
ついつい どこかに 置き忘れ。
 
かららん ころろん 石畳。
ちりりん ちろりん 風鈴歌。
色鮮やかな 浴衣の裾と、白いうなじが 眩しくて。
透かしの 団扇で 夕涼み。
まだまだ 浅い 夜の入り。
名残の時を 惜しむよに、 じんわり滲む 空の端。

乾いた音の 打ち水が、 子供の声に 調子をつけて、 
そろそろ 夕餉と 告げている。
 
かしゃしゃん かしゃしゃん 車輪の音に 
かりりん かららん 手鐘の合図。
暢気な面持ち 豆腐屋が、 白い涼を 売りにきて、
年季が覗く 器 片手に、 木戸 くぐる。
 
晒しの てぬぐい ちょいとかけ、真っ赤に 火照った じさまの頭、
思案顔で 睨んで捻る 将棋の駒は、 縁台 上に寝そべって、
  腹掛け 一つで 行水さなか、 赤子 無邪気に きゃっきゃと 笑う。
 
酔い酔い 千鳥、 ほろほろと、 
徳利瓢箪 ひっ下げて、 機嫌上々 帰るは おやじ。
今日の 稼ぎは どうだいね、襷の かかぁは 武蔵坊。
威勢の良さは、仲の良さ、犬も 食わぬは 口喧嘩。  
 
長屋の傍を さらさらと、流れる河に 柳がそよぎ、
長屋の上を ゆるゆると、流れる時に 眼を細め、 
長屋の跡を ゆらゆらと、流れた夢は 幻で。
  
変わらぬものを 探したら、
空に 残った 夏の月。
騒々しくて お節介、それでも どこか 暖かく、
思い出せば 目が熱い。
今は 何処を 探しても、あの 懐かしい 夏は無く、
今は 何処に 旅しても、あの 心地よい 夏は無く、
ただ、ひっそりと 月が在る。
ただ、沈黙の 月が在る。
拙い 言葉で 書き綴る。
花鳥の 雅を 眺めつつ。
君に 一筆 したためて、
小春の 宴と 致しましょう。
 
日差しも 大気も 柔らかく、
優しい 光に 飾られて、
小さな 庭も 楽園に。
 
うつら うつらと 時が逝き、
立てた 片膝 裸足の裏に、
ひんやり 伝わる 板の間に、
ひらり、舞い来る 使者の弁。
 
さぁさ、宴は 第二部へ。
薄れた 青の、空の端。
 銀の月が 覗く頃、 仄かな 明かりを 蜀台に。
貝の杯、神の水。
玻璃の徳利、涙の形。
 
君へと 書いた 薄手の紙に、
踊る 墨は、掠れて 滲む。
頬杖ついて、乾杯を。
 
さらさら 流れる 桜のように、
ゆらゆら 揺れる 炎のように、
こうこう 照らす 月陽のように、
 
今は 一瞬、 去り行く 季節。
けれど、再び 還り 着て、
僕も 再び 宴を 開く。
 
君が 眠る この庭で。
君が 微笑む この庭で。
君が 佇む この庭で。

月輪の都 『箍』

2004年5月2日
この世には 数える程しか 真実は なくて。
この世には 数え切れない 虚実が あって。
  この世には 割り切れるだけの 実態が なくて。  
この世には 彷徨い続ける 矛盾が あって。
 
人の数だけ 愚者は いて。
人の数ほど 聖者は いない。
 
私だけの 法が あって。
私だけの 罪が ある。
私だけの 罰が あって。
私だけの 報いが ある。
けれど
万人の法は 罪は 罰は 報いは、
在る事すら 許されぬ。
愛す事は 掛け算。
怨む事は 割り算。
離す事は 足し算。
苦む事は 引き算。

生れは 諦め。
老いは 摂理。
病いは 気付き。
死すは 転機。
 
良かった探しを してみれば、
きっと こんな風かも しれないね。
 
ごめんね、笑って あげられなくて。
ごめんね、やさしさ あげられなくて。
ごめんね、言葉 一つも あげられなくて。
ごめんね、猶予を あげられなくて。
ごめんね、理由を聞いて あげられなくて。
 
ほんの 些細な コトだけど、
積み重なって 初めて 気付く。
 
  春の 雪解け、 夏の 夕立 、秋の 深き夜、 冬の 朝冷え。
君にも 何かの 兆しがくれば、いいのだけれど。
 
ごめんね
その 一言が もどかしくって。
ごめんね
その 一言を 忘れて しまったみたい。
ごめんね
きっと 僕も 君も
言いたかったの だろうにね。
きっと 僕も 君も
探せなかった みたいだね。
ごめんね
簡単すぎて、難しすぎた、みたいだね。

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