月輪の都 『生死流転』
2004年12月7日襤褸の遺骸を 抱きながら、幾度も乳を 含ます母猿。
皮一枚で繋がった 足を引きずり、群れより 逸れまいとする豺(やまいぬ)。
羽が抜け落ち 骨も露な片翼で、空を掴めと 羽ばたく海鳥。
蛆の湧いた 潰れた眼で、残飯漁る 子連れの雌豹。
それが 生きると 言う事か。
産んであげられなくて ごめんなさいと、氷の河に 沈む母。
野武士に 獲られる末ならと、手負いの父の 首掻く子。
この子だけでも 助けてと、劫火の中から 託した両手。
十の命を 延ばすため、百に別たれ 千に散った肉体。
衆生の願いを 一身に、集め負わされ 湿った地下の石室に。
至上の神への奉公に、万里を越える 旅の終焉 雲の上。
それが 生きると 言う事か。
人は 甘美な夢を、餌にして。
獣は 満たす腹を、餌にして。
木々 は世代を残す術を、餌にして。
それが 生きると 言う事か。
皮一枚で繋がった 足を引きずり、群れより 逸れまいとする豺(やまいぬ)。
羽が抜け落ち 骨も露な片翼で、空を掴めと 羽ばたく海鳥。
蛆の湧いた 潰れた眼で、残飯漁る 子連れの雌豹。
それが 生きると 言う事か。
産んであげられなくて ごめんなさいと、氷の河に 沈む母。
野武士に 獲られる末ならと、手負いの父の 首掻く子。
この子だけでも 助けてと、劫火の中から 託した両手。
十の命を 延ばすため、百に別たれ 千に散った肉体。
衆生の願いを 一身に、集め負わされ 湿った地下の石室に。
至上の神への奉公に、万里を越える 旅の終焉 雲の上。
それが 生きると 言う事か。
人は 甘美な夢を、餌にして。
獣は 満たす腹を、餌にして。
木々 は世代を残す術を、餌にして。
それが 生きると 言う事か。
月輪の都 『焔龍』
2004年12月6日地底の果てから 産声上げて、
地表を激しく 揺るがして、
地上の頂 彼方より。
闇に浮かんだ 焔の龍は、
産まれし 山より 駆け降りる。
ごぅと 爆風 牙の口。
山肌舐める うねりの巨体。
碧き立木は 悲鳴も嘆きも 上げぬまま、
瞬時に炭へと 姿を変えて、
空を逃げる 鳥さえも、熱の息吹で 吹き落とし。
鎮座す 巨岩も、焔の色に 塗り替えて。
沢に溢れた 火の河に、流れる音は 乾いて弾け、
生きとし 生けるものたちを、焼き滅ぼして、突き進む。
やがて 地獄の叫喚を、吼えながら 死に行くまで。
やがて 海へと投身してゆく、その時まで。
無数の命を 飲み込んで、一つの命となりし 焔龍の、
細めた眼が 目指す先、己を殺す 海の蒼。
空へは 飛べぬ 龍ゆえに、
海の蒼に 空 求め、
行く末 知りても 止まらぬ 命。
地表を激しく 揺るがして、
地上の頂 彼方より。
闇に浮かんだ 焔の龍は、
産まれし 山より 駆け降りる。
ごぅと 爆風 牙の口。
山肌舐める うねりの巨体。
碧き立木は 悲鳴も嘆きも 上げぬまま、
瞬時に炭へと 姿を変えて、
空を逃げる 鳥さえも、熱の息吹で 吹き落とし。
鎮座す 巨岩も、焔の色に 塗り替えて。
沢に溢れた 火の河に、流れる音は 乾いて弾け、
生きとし 生けるものたちを、焼き滅ぼして、突き進む。
やがて 地獄の叫喚を、吼えながら 死に行くまで。
やがて 海へと投身してゆく、その時まで。
無数の命を 飲み込んで、一つの命となりし 焔龍の、
細めた眼が 目指す先、己を殺す 海の蒼。
空へは 飛べぬ 龍ゆえに、
海の蒼に 空 求め、
行く末 知りても 止まらぬ 命。
12月6日の日記
2004年12月6日遠雷 轟き、蒼き 亀裂が 空を刺し、
時を遅れて 届いた音は、小さくあるのに 共鳴す。
太鼓となりし この身に 響き、燻る想い 捨て去れぬ。
揺るがぬ 眼差し 携えて、氷の道を 裸足で歩け。
内に炎を 宿して 進め、例え 闇の視界でも。
この身に負うた 袈裟懸けの、痕は白刃 埋めた為。
時を遅れて 届いた音は、小さくあるのに 共鳴す。
太鼓となりし この身に 響き、燻る想い 捨て去れぬ。
揺るがぬ 眼差し 携えて、氷の道を 裸足で歩け。
内に炎を 宿して 進め、例え 闇の視界でも。
この身に負うた 袈裟懸けの、痕は白刃 埋めた為。
12月4日の日記
2004年12月4日僕から遡る 譜系図と、僕にたどり着く 譜系図と、同じようで違うもの。
それでも僕が 組み込まれていることに 変わりはないが。
拡がる枝葉が変化する。
僕が所属する社会と、社会のなかで産まれた僕と
似て非なる社会の形。
どちらも根差してゆかねばならぬ。
例えどんなに歪んでいても。
もっとも僕が平衡感覚に乏しいのかもしれないけれど。
それでも僕が 組み込まれていることに 変わりはないが。
拡がる枝葉が変化する。
僕が所属する社会と、社会のなかで産まれた僕と
似て非なる社会の形。
どちらも根差してゆかねばならぬ。
例えどんなに歪んでいても。
もっとも僕が平衡感覚に乏しいのかもしれないけれど。
12月4日の日記
2004年12月4日部屋の片隅 丸めた背中。
雨戸締め切り 薄闇の、
小刻みに 震えた肩が、声を殺して 咽び泣く。
伝え聞いた 君の死に、決して 泣くまいと 誓ったけれど。
堅く 冷たい 君に 触れたらば、
内腑から 込み上げる 鳴咽に負けて。
涙は 堰を切ったように 溢れ出た。
綺麗な君の 死化粧、一筋残る 涙の後は、君の名残か 錯覚か。
動かぬ唇、水を含ませ、滲んだ視界に 歪んで写る。
君の前で うなだれて、心で 名前を呼びながら、
僕は 別れを 実感する。
子供のように ひとしきり 泣きじゃくれられれば いいのだけれど。
大人を捨てたく思う時。
気丈に耐えて忍ぶ姿が美徳だなどと
そんな価値観かなぐり捨てて 僕は子供になりたかった。
雨戸締め切り 薄闇の、
小刻みに 震えた肩が、声を殺して 咽び泣く。
伝え聞いた 君の死に、決して 泣くまいと 誓ったけれど。
堅く 冷たい 君に 触れたらば、
内腑から 込み上げる 鳴咽に負けて。
涙は 堰を切ったように 溢れ出た。
綺麗な君の 死化粧、一筋残る 涙の後は、君の名残か 錯覚か。
動かぬ唇、水を含ませ、滲んだ視界に 歪んで写る。
君の前で うなだれて、心で 名前を呼びながら、
僕は 別れを 実感する。
子供のように ひとしきり 泣きじゃくれられれば いいのだけれど。
大人を捨てたく思う時。
気丈に耐えて忍ぶ姿が美徳だなどと
そんな価値観かなぐり捨てて 僕は子供になりたかった。
12月4日の日記
2004年12月4日今宵は 如何な夢を 進ぜましょ。
瞼を 開けぬ 唄人が、朗たる声で 凛と告げ。
異国の楽器を携えて、爪弾く琴線 眠りの薬。
奏でる夜話が 心に響かす もの哀しさも、
耳をそばだて 伏せた瞼に 情景踊る。
異郷の話しを 終えたなら、時の旅路を のぼりましょう。
ゆるゆる流れた 国もあり、激しい渦の 人もあり。
私の背に 負わされた、盲いた訳を 話しましょ。
天に召されし 英雄も、獄に追われし 罪人も、時の悪戯 紙一重。
美貌の姫も 象牙の賢者も 行き着く先は、されこうべ。
老婆が指差す 大地の彼方。
英雄立てる 崖の上。
神童 口寄せ 祝る未来(さき)。
さぁさ ご覧じろうて 刻みゆけ。
さぁさ 拝聴したまえ 轍の理由(わけ)を。
瞼を 開けぬ 唄人が、朗たる声で 凛と告げ。
異国の楽器を携えて、爪弾く琴線 眠りの薬。
奏でる夜話が 心に響かす もの哀しさも、
耳をそばだて 伏せた瞼に 情景踊る。
異郷の話しを 終えたなら、時の旅路を のぼりましょう。
ゆるゆる流れた 国もあり、激しい渦の 人もあり。
私の背に 負わされた、盲いた訳を 話しましょ。
天に召されし 英雄も、獄に追われし 罪人も、時の悪戯 紙一重。
美貌の姫も 象牙の賢者も 行き着く先は、されこうべ。
老婆が指差す 大地の彼方。
英雄立てる 崖の上。
神童 口寄せ 祝る未来(さき)。
さぁさ ご覧じろうて 刻みゆけ。
さぁさ 拝聴したまえ 轍の理由(わけ)を。
12月4日の日記
2004年12月4日きりりと締まる 朝焼けの、燃えたる空に 視線を馳せて、
うつつの宵に 訣別を。
眠りの刻は 短くて、柔い温もり 名残惜し。
横顔照らす すがしき光、吸い込む内腑も 禊の心地。
寝ぼけ眼に 肌刺す 冷気、時計の針より 感覚に、
朝の訪れ 告げている。
数字が 並んだ 視覚より、体が 覚えた 目醒こそ、
日々を 臨むに 相応しく。
大きく 仰いで 延ばす手が、天に届けと 伸びている。
昨日と同じ 朝はなく、明日と同じ 夜はない。
昨日と同じ 僕はなく、明日と同じ 僕がないように。
うつつの宵に 訣別を。
眠りの刻は 短くて、柔い温もり 名残惜し。
横顔照らす すがしき光、吸い込む内腑も 禊の心地。
寝ぼけ眼に 肌刺す 冷気、時計の針より 感覚に、
朝の訪れ 告げている。
数字が 並んだ 視覚より、体が 覚えた 目醒こそ、
日々を 臨むに 相応しく。
大きく 仰いで 延ばす手が、天に届けと 伸びている。
昨日と同じ 朝はなく、明日と同じ 夜はない。
昨日と同じ 僕はなく、明日と同じ 僕がないように。
月輪の都 『夜の住人』
2004年11月21日月の背に 肩を預けて、そっと瞳 閉じてみる。
柔らかな 光溢れる 静かな夜が 私を包む。
雫 零れる月の涙は、指の隙間から 流れて落ちて、
崩れるように 滑り込んだ 褥の心地が 眠りを誘う。
何時の日にか 見た夢の、続きが 私を 喚びながら、
天使の頃を 思い起こす。
一日が、とても 永くて、無邪気に 笑えた あの頃が、
果実のような 思い出で。
窓から覗いた あの月も、もっと 遠くに あったのに。
私の心に 住み着いた、月は 日毎に 大きくなって、
私は 夜の 住人に。
眠りを 惜しむ 訳でなく。
居心地の良さが、私を 虜にしたのだと。
軋む音に 耳塞ぎ、歪む顔に 目を閉じて、
感じたことを 飲み込んで。
処方の薬を 毒のよに、私は 何処も 悪くはないと、
膿んだ患部を 切り捨てた。
光を 恋しく 想うのに、どうして 姿を 見れないの。
光を 求めて 飛んだのに、どうして 翼 もがれるの。
伸ばした掌 透けるほど、眩しすぎて 目を焼いて。
私が 見える 光の姿、夜に 浮かんだ 月輪だけ。
私が 私を 観る時間(とき)は、夜に 沈んだ 月下だけ。
柔らかな 光溢れる 静かな夜が 私を包む。
雫 零れる月の涙は、指の隙間から 流れて落ちて、
崩れるように 滑り込んだ 褥の心地が 眠りを誘う。
何時の日にか 見た夢の、続きが 私を 喚びながら、
天使の頃を 思い起こす。
一日が、とても 永くて、無邪気に 笑えた あの頃が、
果実のような 思い出で。
窓から覗いた あの月も、もっと 遠くに あったのに。
私の心に 住み着いた、月は 日毎に 大きくなって、
私は 夜の 住人に。
眠りを 惜しむ 訳でなく。
居心地の良さが、私を 虜にしたのだと。
軋む音に 耳塞ぎ、歪む顔に 目を閉じて、
感じたことを 飲み込んで。
処方の薬を 毒のよに、私は 何処も 悪くはないと、
膿んだ患部を 切り捨てた。
光を 恋しく 想うのに、どうして 姿を 見れないの。
光を 求めて 飛んだのに、どうして 翼 もがれるの。
伸ばした掌 透けるほど、眩しすぎて 目を焼いて。
私が 見える 光の姿、夜に 浮かんだ 月輪だけ。
私が 私を 観る時間(とき)は、夜に 沈んだ 月下だけ。
11月20日の日記
2004年11月20日傍に 貴方が いたことが、少し 昔に 想う頃。
哀しみ 疲れて 眠る夜に、別れを 告げた 時だと判る。
二人 互いに 歩み寄り、幾多の時を 過ごしたけれど、
二人 歩んだ この道を 思い出 語るに 早すぎて、
ついつい 日々に おざなりで、甘えて 油断してたのね。
夜に 眠れば 必ず朝に 目覚めると、
空気のように 思ってた。
失くして初めて 気付くから。
亡くして始めて 愛するから。
嘆きの昼夜を 過ごすけど、生きて 行かねば ならぬから。
記憶を組み替え 幾度も晒し、灰汁を抜いて 喰らうよう。
生きて ゆかねば ならぬなら。
哀しみ 疲れて 眠る夜に、別れを 告げた 時だと判る。
二人 互いに 歩み寄り、幾多の時を 過ごしたけれど、
二人 歩んだ この道を 思い出 語るに 早すぎて、
ついつい 日々に おざなりで、甘えて 油断してたのね。
夜に 眠れば 必ず朝に 目覚めると、
空気のように 思ってた。
失くして初めて 気付くから。
亡くして始めて 愛するから。
嘆きの昼夜を 過ごすけど、生きて 行かねば ならぬから。
記憶を組み替え 幾度も晒し、灰汁を抜いて 喰らうよう。
生きて ゆかねば ならぬなら。
月輪の都 『成龍』
2004年11月19日永遠を 謡う 夢の中。
刹那に 消える 掴む影。
風に 乗って 羽ばたく 彼方。
夕日の沈む 西海へ。
一路 舵とる 星の先。
渡海を 阻む 嵐を 薙ぎて。
苦界に 惑う 深山も、それでも 一歩 進まねば、
例え 霧の視界でも、抜け出す 時は 見えてこぬ。
仰いだ 天に 標(しるべ)を求め、
探した 渓流、救いを求め、望み 託した 笹船 送る。
渡る山河に 姿を隠し、人里 忘るる 時に見し。
哀し 奏で、空の色。
日毎 満ち欠け、暦の月。
行けども続く、砂漠の丘を、辿り 辿るは 月の舟。
遥かな天に 昇れども、触れる事すら 叶わぬ月よ。
雲も 影と、なるばかり。
道行く友も、草場に眠り、添えぬ 恋人(つま)も 墓標の下に。
遺す子とて おらぬ 今、なんぞ 悔いは あらずとも、
如何に 逝けぬ、嘆きを 持って、
捨てた 故郷を 夢に泣く。
希望に 溢れた 出立を、見送る 姿は、寂しき 夜明け。
泪 堪えて、あげた手の、遠い面影 滲む 今。
今生の 別れと 想うた 訳でなし。
錦 纏うて 帰る日を、誓って 立った 筈だのに。
別れは 何時も 突然に、親しき者が 去ってゆく。
山の彼方に 飛び退る、二匹の虹(こう)を追うただけ。
煌めく その背を 追うただけ。
何時か 龍と 成らん為。
雲を 追い越し 雨を喚び、雷鳴 従え 昇り行く。
五爪の龍と 成る為に。
刹那に 消える 掴む影。
風に 乗って 羽ばたく 彼方。
夕日の沈む 西海へ。
一路 舵とる 星の先。
渡海を 阻む 嵐を 薙ぎて。
苦界に 惑う 深山も、それでも 一歩 進まねば、
例え 霧の視界でも、抜け出す 時は 見えてこぬ。
仰いだ 天に 標(しるべ)を求め、
探した 渓流、救いを求め、望み 託した 笹船 送る。
渡る山河に 姿を隠し、人里 忘るる 時に見し。
哀し 奏で、空の色。
日毎 満ち欠け、暦の月。
行けども続く、砂漠の丘を、辿り 辿るは 月の舟。
遥かな天に 昇れども、触れる事すら 叶わぬ月よ。
雲も 影と、なるばかり。
道行く友も、草場に眠り、添えぬ 恋人(つま)も 墓標の下に。
遺す子とて おらぬ 今、なんぞ 悔いは あらずとも、
如何に 逝けぬ、嘆きを 持って、
捨てた 故郷を 夢に泣く。
希望に 溢れた 出立を、見送る 姿は、寂しき 夜明け。
泪 堪えて、あげた手の、遠い面影 滲む 今。
今生の 別れと 想うた 訳でなし。
錦 纏うて 帰る日を、誓って 立った 筈だのに。
別れは 何時も 突然に、親しき者が 去ってゆく。
山の彼方に 飛び退る、二匹の虹(こう)を追うただけ。
煌めく その背を 追うただけ。
何時か 龍と 成らん為。
雲を 追い越し 雨を喚び、雷鳴 従え 昇り行く。
五爪の龍と 成る為に。
月輪の都 『山祗』・やまつみ・
2004年11月16日稜線 描く 光の帯が、刻々浮かび 宵は終焉。
今朝に産まれる 喜びを、今朝に羽ばたく 誇りを抱いて、
風を掴んで 空に 舞う。
夜の名残は 朝露に、陽光差せば、姿を変えて、
もと来た道を 昇り行く。
眠りの間に 溜めた気を、一斉 散じて 解き放ち、
昼に生きる 者達を、揺り起こしては ざわめく木々。
夢の終わりを 惜しむよに、眩しい光に 目を細め、
小さく 身震い、大きく 呼吸、
季節を 彩り、萌えては 散りゆく 運命(さだめ)を映す。
雲居の三日月、金の匙。
夜の趣 そろそろり、足音 失くして 忍び寄り。
暝(くら)き国の 民人が、銀の瞳を 輝かせ、
宴の狩へと 身を起こす。
落ち葉を 踏む音、かさかさり。
森の番人 低い唄、空へと向かう 影一つ。
億の光は ささやかに、万の光年 願う夜。
千の魂 還る日は、十の星が 流れて去った。
永き時を 渡る瀬に、長き吐息を 乗せる雲。
声を聴かば 獣の遠吠え、月へと 呑まれ、
気配を訊かば 形無きもの 顔を出し、
恐れを呼びて 虞を産むは、自滅を誘う 闇の蠢き。
誰かに 惑わされた 事でなく。
誰かに 酔わされた 訳でなく。
己の闇に 喰われた ばかり。
鳴動せざる 山祗は、ただただ 其処に 座るだけ。
生死惑道 山祗は、一片の 曇り無き 鏡の如く 在るばかり。
今朝に産まれる 喜びを、今朝に羽ばたく 誇りを抱いて、
風を掴んで 空に 舞う。
夜の名残は 朝露に、陽光差せば、姿を変えて、
もと来た道を 昇り行く。
眠りの間に 溜めた気を、一斉 散じて 解き放ち、
昼に生きる 者達を、揺り起こしては ざわめく木々。
夢の終わりを 惜しむよに、眩しい光に 目を細め、
小さく 身震い、大きく 呼吸、
季節を 彩り、萌えては 散りゆく 運命(さだめ)を映す。
雲居の三日月、金の匙。
夜の趣 そろそろり、足音 失くして 忍び寄り。
暝(くら)き国の 民人が、銀の瞳を 輝かせ、
宴の狩へと 身を起こす。
落ち葉を 踏む音、かさかさり。
森の番人 低い唄、空へと向かう 影一つ。
億の光は ささやかに、万の光年 願う夜。
千の魂 還る日は、十の星が 流れて去った。
永き時を 渡る瀬に、長き吐息を 乗せる雲。
声を聴かば 獣の遠吠え、月へと 呑まれ、
気配を訊かば 形無きもの 顔を出し、
恐れを呼びて 虞を産むは、自滅を誘う 闇の蠢き。
誰かに 惑わされた 事でなく。
誰かに 酔わされた 訳でなく。
己の闇に 喰われた ばかり。
鳴動せざる 山祗は、ただただ 其処に 座るだけ。
生死惑道 山祗は、一片の 曇り無き 鏡の如く 在るばかり。
月輪の都 『碧の海神』・あおのわたつみ・
2004年11月13日奏しき 波の、 行方 知れず。
磨石の 砂瀬に 佇みて、渡る 海鳥、目指す 空。
暁の明星、白む月。
異界の風を 運ぶ 瀬戸、永の旅路に 流れ着き、
刻を 閉じ込め 横たわる。
吹かれては 舞い、攫われては 踊る、
砂(いさご)しゃらしゃら、趣 謳う。
境を色に 託したように、異質な 感触 主張して、
其々 何かを 告げている。
毒を 孕んだ 誘いのように、疼く 刺激は 見分けがつかぬ。
足を 浚う 波のよに、眼を 奪う 艶のよに。
羽毛の懐で 招くよに、甘言 巧みに 乗せるよに。
いざや いざやと 船 漕ぎ出でて、陸(おか)を遥かに 背にすれば、
紺碧ゆらぐ 海原は、孤高の絶海 拙い足元。
荒天 波乱は 彼方から、激しく 中空 上下して、
突如、頂(いただき)押し上げられて、
見る間に 水の絶壁が、左右を阻み 谷底へと 早変わり。
常に 死地に 臨んでも、常に 揺らぎの 舟板でも、
碧の海神、統べる国、心は とおに 奪われて、
大地よりも 長き事、この海原に 漂いて。
蜃気楼の 故郷(くに)のよに、
朧に見えた あの島を、再び 背にして 漕ぎ出だす。
碧の海神、ゆらゆらと、揺り籠 あやす 手のように、
心地よすぎて、眼を閉じる。
柄杓を求める 手が其処に、美声で謡う 声が其処に、
もしも、此処に あるのなら、
どうぞ、柄杓を 差し出そう。
どうぞ、この手を 差し出そう。
碧の海神、喚ぶのなら。
磨石の 砂瀬に 佇みて、渡る 海鳥、目指す 空。
暁の明星、白む月。
異界の風を 運ぶ 瀬戸、永の旅路に 流れ着き、
刻を 閉じ込め 横たわる。
吹かれては 舞い、攫われては 踊る、
砂(いさご)しゃらしゃら、趣 謳う。
境を色に 託したように、異質な 感触 主張して、
其々 何かを 告げている。
毒を 孕んだ 誘いのように、疼く 刺激は 見分けがつかぬ。
足を 浚う 波のよに、眼を 奪う 艶のよに。
羽毛の懐で 招くよに、甘言 巧みに 乗せるよに。
いざや いざやと 船 漕ぎ出でて、陸(おか)を遥かに 背にすれば、
紺碧ゆらぐ 海原は、孤高の絶海 拙い足元。
荒天 波乱は 彼方から、激しく 中空 上下して、
突如、頂(いただき)押し上げられて、
見る間に 水の絶壁が、左右を阻み 谷底へと 早変わり。
常に 死地に 臨んでも、常に 揺らぎの 舟板でも、
碧の海神、統べる国、心は とおに 奪われて、
大地よりも 長き事、この海原に 漂いて。
蜃気楼の 故郷(くに)のよに、
朧に見えた あの島を、再び 背にして 漕ぎ出だす。
碧の海神、ゆらゆらと、揺り籠 あやす 手のように、
心地よすぎて、眼を閉じる。
柄杓を求める 手が其処に、美声で謡う 声が其処に、
もしも、此処に あるのなら、
どうぞ、柄杓を 差し出そう。
どうぞ、この手を 差し出そう。
碧の海神、喚ぶのなら。
月輪の都 『後朝の文』
2004年11月11日夜宵の睦を 忘れぬように、
囁く言霊 誓いのように、
逢瀬を重ねた 御簾を越え、扇を違えて 心を残し、
必ず君を 迎えに行くと。
清々しさと 麗しさ、朝露光る 野辺の草、
寝床を離れて 戯れ踊る、番いの蝶が 飛び交いて。
耳に届く 小鳥の唄に、囁く 木の葉ずれの唄、
髪を攫って 吹く風の、大地の香りは 内腑を濯ぐ。
例え 時空を 経てもなお、
古今の朝は 不変の廻り、途切れもせずに。
垣根の向こうを 求める心、
忘れ去られる 事はない。
妻問う夜を 重ね行く、営み永久(とわ)に 繰り返し。
切ない想いを 歌にして、筆は 時折、休むもの。
伝信送る 指とまり、電言鳴らす 手がとまり。
片時たりとて 離れていたく ないけれど、
そうも いかぬが 常の世 習い。
昨夜と同じ 道を行き、
昨夜と同じ 君を求め、
昨夜と同じ 宿を取る。
抱きしめ続ける 事はせぬ。
愛し続ける その為に。
寄り添い続ける 事はせぬ。
恋する心を 無くさぬ為に。
後朝の文を 送り続ける その為に。
もどかしさが 甘い甘い 疼きのように、
物足りなさが 愛しい愛しい 君を想う。
心 半ばに 留め置くは、今 暫くの 間でも、
余韻に 酔うて いたいから。
囁く言霊 誓いのように、
逢瀬を重ねた 御簾を越え、扇を違えて 心を残し、
必ず君を 迎えに行くと。
清々しさと 麗しさ、朝露光る 野辺の草、
寝床を離れて 戯れ踊る、番いの蝶が 飛び交いて。
耳に届く 小鳥の唄に、囁く 木の葉ずれの唄、
髪を攫って 吹く風の、大地の香りは 内腑を濯ぐ。
例え 時空を 経てもなお、
古今の朝は 不変の廻り、途切れもせずに。
垣根の向こうを 求める心、
忘れ去られる 事はない。
妻問う夜を 重ね行く、営み永久(とわ)に 繰り返し。
切ない想いを 歌にして、筆は 時折、休むもの。
伝信送る 指とまり、電言鳴らす 手がとまり。
片時たりとて 離れていたく ないけれど、
そうも いかぬが 常の世 習い。
昨夜と同じ 道を行き、
昨夜と同じ 君を求め、
昨夜と同じ 宿を取る。
抱きしめ続ける 事はせぬ。
愛し続ける その為に。
寄り添い続ける 事はせぬ。
恋する心を 無くさぬ為に。
後朝の文を 送り続ける その為に。
もどかしさが 甘い甘い 疼きのように、
物足りなさが 愛しい愛しい 君を想う。
心 半ばに 留め置くは、今 暫くの 間でも、
余韻に 酔うて いたいから。
月輪の都 『共鳴』
2004年11月7日激情 駆られた 逃避行。
熱に魘され 墜ちて行く。
初めて 触れた 瞬間に、焔が突然 燃え盛り。
怯えた表情(かお)で カタカタと、幾度も 君は 振り返り。
それでも 反す瞳は キラキラと、生きた眼差し 向けていた。
肩寄せあって、握った掌、白む指。
月夜の木々は ざわざわと、長い影を 触手の様に、
走る道に 伸びていた。
小さく 切り取られた 世界の中で、
僕は どんな風に 映ったのだろう。
きっと それは 愛でなく。
きっと それは 恋でなく。
きっと それは 情けではなく。
僕が そうでは ないように。
動物園で 晒された、物珍しい 獣のように、
温室栽培の 貴種の 華のよに、
連れて 手折って 奪い去り、逃げて隠して しまいたいだけ。
二人 連れ沿い、何時々々までも。
そんな 言葉が 浮かぶはずも 無い想い。
僕は 略奪の欲望に 沿い、
君は 冒険の誘惑に 沿い。
旅券を持たない 僕たちが、
辿り着けた 地の果ては、過酷なまでに 何もなく。
追っ手もなければ、助けの手も、ありは しなかった。
そうして 漸く 僕たちは、
繋いだ この手の 意味を知る。
二人 思惑 違うけど、上げた悲鳴が 重なり響き、
海が境の 国の端、踏み出す一歩も 無い場所に、
流れ流れて 立ち尽くす。
滾る夕日が 堕ちた先、遮るもの無く 降る星火。
突き刺す 朝日が 昇ったら、
二人 静かに 言葉を 交わそう。
何を 告げるか 知らないけれど。
熱に魘され 墜ちて行く。
初めて 触れた 瞬間に、焔が突然 燃え盛り。
怯えた表情(かお)で カタカタと、幾度も 君は 振り返り。
それでも 反す瞳は キラキラと、生きた眼差し 向けていた。
肩寄せあって、握った掌、白む指。
月夜の木々は ざわざわと、長い影を 触手の様に、
走る道に 伸びていた。
小さく 切り取られた 世界の中で、
僕は どんな風に 映ったのだろう。
きっと それは 愛でなく。
きっと それは 恋でなく。
きっと それは 情けではなく。
僕が そうでは ないように。
動物園で 晒された、物珍しい 獣のように、
温室栽培の 貴種の 華のよに、
連れて 手折って 奪い去り、逃げて隠して しまいたいだけ。
二人 連れ沿い、何時々々までも。
そんな 言葉が 浮かぶはずも 無い想い。
僕は 略奪の欲望に 沿い、
君は 冒険の誘惑に 沿い。
旅券を持たない 僕たちが、
辿り着けた 地の果ては、過酷なまでに 何もなく。
追っ手もなければ、助けの手も、ありは しなかった。
そうして 漸く 僕たちは、
繋いだ この手の 意味を知る。
二人 思惑 違うけど、上げた悲鳴が 重なり響き、
海が境の 国の端、踏み出す一歩も 無い場所に、
流れ流れて 立ち尽くす。
滾る夕日が 堕ちた先、遮るもの無く 降る星火。
突き刺す 朝日が 昇ったら、
二人 静かに 言葉を 交わそう。
何を 告げるか 知らないけれど。
月輪の都 『月下の龍』
2004年11月3日天地に跨がる、翠の空。
鏡の湖、萌える山麗、境を知らず。
模する 彩さえ ありもせぬ、秘境の伊吹 冴え冴えと。
水の世界に 横たわる、倒木すらも命あり。
最も穏やかに、最も確かな時を、走るでもなく、
停まるでもなく、添うて 移りゆく 世界。
幾ら 歩を止め、願ってみても、理 忘れて、佇んでみても、
人は 其処では 生きてはゆけぬ。
行きて 流れる 時節のように、傍観者であるしか 赦されぬ。
龍は白銀(しろがね)、大地にうねりて、輝き放ち 湛え来て、
龍は黄金(くがね)、天空満ちて 彼方より、
眩やか降りて 注ぎゆき、
龍は蒼碧(そうへき)、水面を揺らし、
滾水 流水 止水を統べて、
龍は季彩(きさい)、生命をなべて、
掌に 無限の彩を 集め持ち、
龍は悠久(はるか)、営み密かに、
清(さや)けく鎮まり 語らぬ掟。
照りて返す 絹糸の、途切れぬ流れ、雫を産んで、
冴える月下を 渡る音。
鳥は眠りて 沈み、魚は溺れて 跳ねる。
落葉漂い 船浮かべ、波紋は獣 飲み込んで。
凍える夜に 仰臥して、冥土の土産に 杯を。
余韻を演じて 蝶は落ち、墓標座する 黙した断崖。
河に産まれた 森は 生き、
山に産まれた 湖(うみ)は 生き、
天に産まれた 地の裾は 生き、
生命に産まれた 心は 逝く。
今宵、廻りて 還る魂に、月下は 眩く 荘厳に。
今宵、伏したる龍に 添い寝して、久遠を刻め 魂に。
鏡の湖、萌える山麗、境を知らず。
模する 彩さえ ありもせぬ、秘境の伊吹 冴え冴えと。
水の世界に 横たわる、倒木すらも命あり。
最も穏やかに、最も確かな時を、走るでもなく、
停まるでもなく、添うて 移りゆく 世界。
幾ら 歩を止め、願ってみても、理 忘れて、佇んでみても、
人は 其処では 生きてはゆけぬ。
行きて 流れる 時節のように、傍観者であるしか 赦されぬ。
龍は白銀(しろがね)、大地にうねりて、輝き放ち 湛え来て、
龍は黄金(くがね)、天空満ちて 彼方より、
眩やか降りて 注ぎゆき、
龍は蒼碧(そうへき)、水面を揺らし、
滾水 流水 止水を統べて、
龍は季彩(きさい)、生命をなべて、
掌に 無限の彩を 集め持ち、
龍は悠久(はるか)、営み密かに、
清(さや)けく鎮まり 語らぬ掟。
照りて返す 絹糸の、途切れぬ流れ、雫を産んで、
冴える月下を 渡る音。
鳥は眠りて 沈み、魚は溺れて 跳ねる。
落葉漂い 船浮かべ、波紋は獣 飲み込んで。
凍える夜に 仰臥して、冥土の土産に 杯を。
余韻を演じて 蝶は落ち、墓標座する 黙した断崖。
河に産まれた 森は 生き、
山に産まれた 湖(うみ)は 生き、
天に産まれた 地の裾は 生き、
生命に産まれた 心は 逝く。
今宵、廻りて 還る魂に、月下は 眩く 荘厳に。
今宵、伏したる龍に 添い寝して、久遠を刻め 魂に。
月輪の都 『戸惑い』
2004年11月2日助けられない子供たち、
助からない子供たち、
助けを知らぬ子供たち。
助けられない大人たち、
助かれない大人たち、
助けを持たぬ大人たち。
この国に、戦火は絶えて 久しいけれど。
非道な暴力も、非情な待遇も、卑劣な行為も、のさばって。
声を上げない 子供たち、
叱られるのが 何より怖い。
見捨てられるのが 何より怖い。
声をかけない 大人たち、
個人尊重の 取り違え。
接し方さえ 知らなくて。
愛されない 子供たち、
愛されることが 使命で あるはずなのに。
不器用すぎて、上手に愛を 受け取れなくて。
愛せない 大人たち、
愛することの 試練を越えた 覚えが無くて。
嘘が上手に なりすぎて、自分自身を 信じれなくて。
この国に、身分制度は 廃されて 久しいけれど。
不文律の蔑みも、旧時代の教育も、多数に従う 群衆心理も、
根絶される 事はなく、まことしやかに 囁かれ。
純真無垢な 子供たち、表裏の世界に 惑い彷徨い、疲れ果て。
染め上げられた 大人たち、仮面を付けねば、呼吸が出来ぬ。
何を重ねて、大人というか、何を捨てて、子供というか、
何を掲げて、幸福というか、何を失くして、不幸というか、
この国に、この時代に、この世界に、
たった ほんの一つでいい、確かな何かが、掴めたら。
助からない子供たち、
助けを知らぬ子供たち。
助けられない大人たち、
助かれない大人たち、
助けを持たぬ大人たち。
この国に、戦火は絶えて 久しいけれど。
非道な暴力も、非情な待遇も、卑劣な行為も、のさばって。
声を上げない 子供たち、
叱られるのが 何より怖い。
見捨てられるのが 何より怖い。
声をかけない 大人たち、
個人尊重の 取り違え。
接し方さえ 知らなくて。
愛されない 子供たち、
愛されることが 使命で あるはずなのに。
不器用すぎて、上手に愛を 受け取れなくて。
愛せない 大人たち、
愛することの 試練を越えた 覚えが無くて。
嘘が上手に なりすぎて、自分自身を 信じれなくて。
この国に、身分制度は 廃されて 久しいけれど。
不文律の蔑みも、旧時代の教育も、多数に従う 群衆心理も、
根絶される 事はなく、まことしやかに 囁かれ。
純真無垢な 子供たち、表裏の世界に 惑い彷徨い、疲れ果て。
染め上げられた 大人たち、仮面を付けねば、呼吸が出来ぬ。
何を重ねて、大人というか、何を捨てて、子供というか、
何を掲げて、幸福というか、何を失くして、不幸というか、
この国に、この時代に、この世界に、
たった ほんの一つでいい、確かな何かが、掴めたら。
月輪の都 『不諦』
2004年10月31日つい先程まで、出来ていた事なのに、と 愕然とする。
つい昨日まで、平然と歩けて いたはずなのに、と 首を傾げる。
つい今しがたまで、覚えていたのに、と
忘れた事さえ 虚ろになった。
痛い 痛いと、押さえみても、痛みが なくなる事はなく。
動け 動けと、念じてみても、思うとおりに 操れなくて。
思い出せと、深く潜ってみても、欠片さえ 見つからなくて。
眠りの縁から 目覚めたら、以前のように 戻れているかと、
希望 半分、瞳を伏せて、悲しき朝に 涙した。
手に入れる事に、躍起になった事も あるけれど、
今は 捨て去る事に、心を傾けてる。
悲観の末でも、忘却の彼方でも、厭世の果て でもない。
自暴自棄なんて、出来る程に 強くない。
他人に あたれる、権利もなければ、
己に 遺恨する程、罪の意識も無く、謙虚な姿勢も 持ち合わせていない。
本当に怖いのは、見えない患部。
病んだ事にも 気付かずに、裂けている事を 認めたくなくて、
手当ての仕方も、判らないまま、悪化し続けて いくんだもの。
体の傷が 心まで、潜り込んで 行かないように。
何時も 必死に 防御して、闘う事を 忘れない。
剛く、早く、何処までも、走れた日々が あったのだと。
蒼く、高く、澄んだ星火を、この目に映した日々も あったのだと。
細かく、優しく、触れた感触、この手に残した日々も あったのだと。
やがて 薄れて いくかも知れない 記憶だけれど、
何も無いより、きっと いい。
なくし始めた 今だから、漸く こうして 言えるのだけど。
何も無いより、良かったのだと。
つい昨日まで、平然と歩けて いたはずなのに、と 首を傾げる。
つい今しがたまで、覚えていたのに、と
忘れた事さえ 虚ろになった。
痛い 痛いと、押さえみても、痛みが なくなる事はなく。
動け 動けと、念じてみても、思うとおりに 操れなくて。
思い出せと、深く潜ってみても、欠片さえ 見つからなくて。
眠りの縁から 目覚めたら、以前のように 戻れているかと、
希望 半分、瞳を伏せて、悲しき朝に 涙した。
手に入れる事に、躍起になった事も あるけれど、
今は 捨て去る事に、心を傾けてる。
悲観の末でも、忘却の彼方でも、厭世の果て でもない。
自暴自棄なんて、出来る程に 強くない。
他人に あたれる、権利もなければ、
己に 遺恨する程、罪の意識も無く、謙虚な姿勢も 持ち合わせていない。
本当に怖いのは、見えない患部。
病んだ事にも 気付かずに、裂けている事を 認めたくなくて、
手当ての仕方も、判らないまま、悪化し続けて いくんだもの。
体の傷が 心まで、潜り込んで 行かないように。
何時も 必死に 防御して、闘う事を 忘れない。
剛く、早く、何処までも、走れた日々が あったのだと。
蒼く、高く、澄んだ星火を、この目に映した日々も あったのだと。
細かく、優しく、触れた感触、この手に残した日々も あったのだと。
やがて 薄れて いくかも知れない 記憶だけれど、
何も無いより、きっと いい。
なくし始めた 今だから、漸く こうして 言えるのだけど。
何も無いより、良かったのだと。
月輪の都 『自戒』
2004年10月30日回帰を 想うのは、何処か 歪な世界を 見ているから。
解放を 願うのは、何処か 窮屈な縛めを 感じてるから。
海淵を 探すのは、何処か 秘めた理を 隠してるから。
常に、心に纏え 白装束。
簡素な遺言 認め(したため)記し 懐に。
手甲、脚絆に 菅笠を。
慈悲の願文 刻んだ杖を 突き尽きて、
山河を駆けて 望むるは、三つの月の 登る場所。
遥かに浄土を 観想し、尾根を渡りて 歩く運びは 一心に。
巡礼の旅路は 嘗て、命を賭けた 苦難の道々。
現世(うつしよ)生きる 僕たちは、
あらゆるモノを 踏みしだき、
あらゆるモノに 目を瞑り、
あらゆるモノを 欲し続ける。
それは 眼(まなこ)が曇った せいじゃなく、
それは 物理に 惑わされている せいでもない。
生まれ備えた 欲望に、目醒め 自覚した 末の事。
人は、どこまでも 純粋に、どこまでも 邪悪になれる。
罪業を 積み重ねることも、執着を 捨て去る事も、
聖(ひじり)を 創ることも出来、獄卒を 創る事も 出来る。
希望の種で 在るはずだから。
日々は 流れるものでなく、創り出してゆく ものだから。
唯一、人は 己自身の 創造神に なりうると、
自戒をもって、歩むべし。
解放を 願うのは、何処か 窮屈な縛めを 感じてるから。
海淵を 探すのは、何処か 秘めた理を 隠してるから。
常に、心に纏え 白装束。
簡素な遺言 認め(したため)記し 懐に。
手甲、脚絆に 菅笠を。
慈悲の願文 刻んだ杖を 突き尽きて、
山河を駆けて 望むるは、三つの月の 登る場所。
遥かに浄土を 観想し、尾根を渡りて 歩く運びは 一心に。
巡礼の旅路は 嘗て、命を賭けた 苦難の道々。
現世(うつしよ)生きる 僕たちは、
あらゆるモノを 踏みしだき、
あらゆるモノに 目を瞑り、
あらゆるモノを 欲し続ける。
それは 眼(まなこ)が曇った せいじゃなく、
それは 物理に 惑わされている せいでもない。
生まれ備えた 欲望に、目醒め 自覚した 末の事。
人は、どこまでも 純粋に、どこまでも 邪悪になれる。
罪業を 積み重ねることも、執着を 捨て去る事も、
聖(ひじり)を 創ることも出来、獄卒を 創る事も 出来る。
希望の種で 在るはずだから。
日々は 流れるものでなく、創り出してゆく ものだから。
唯一、人は 己自身の 創造神に なりうると、
自戒をもって、歩むべし。
月輪の都 『狡猾』
2004年10月26日私の中に潜んでる 小さな小さな欲望は、
決して 愛とか 恋でなく。
原始に 組み込まれた 生物の、
微かな抵抗、小さな反逆、巧妙な罠 なのかも 知れない。
微細に 細分化された 領域で、
ひっそり なりを 潜めながらも、
決して絶える 事の無い イヴの末裔。
アナタニ アラタナ チカラヲ アゲマショウ。
より強く 高く躍動し、勝ち残れる この力を。
だから、ワタシを アナタの中に、
ちゃんと ちゃんと 残してね。と。
共同戦線 組みながら、己の遺伝子 残すため、
思惑含めて 笑うよう。
私が、狡猾なのではなくて、
狡猾なワタシが、生き残って きたのだよ?
やがて、ワタシが 甦るため。
媚惑の笑みに 含む意味、全ての女が 備えてる。
もしも、原始の欲望に、気付き 目覚めてしまったら、
私のように、なるかもしれない。
貴方の躰が 欲しいと 思うのは。
貴方を貪り 喰らいたいと 願うのは。
貴方と混じり 極上のうねりを 味わうのは。
愛でも、恋でも、繁殖行動でも無い。
もっともっと 単純に、もっともっと 利己的に。
より強き その肉体を 乗っ取って しまいたいと。
湧き上がる 欲望は、もう 抑えることは できなくて。
ワタシが 本当に 望むのは、
貴方の心なんか いらないの。
アナタの躰が 欲しいのよ。
決して 愛とか 恋でなく。
原始に 組み込まれた 生物の、
微かな抵抗、小さな反逆、巧妙な罠 なのかも 知れない。
微細に 細分化された 領域で、
ひっそり なりを 潜めながらも、
決して絶える 事の無い イヴの末裔。
アナタニ アラタナ チカラヲ アゲマショウ。
より強く 高く躍動し、勝ち残れる この力を。
だから、ワタシを アナタの中に、
ちゃんと ちゃんと 残してね。と。
共同戦線 組みながら、己の遺伝子 残すため、
思惑含めて 笑うよう。
私が、狡猾なのではなくて、
狡猾なワタシが、生き残って きたのだよ?
やがて、ワタシが 甦るため。
媚惑の笑みに 含む意味、全ての女が 備えてる。
もしも、原始の欲望に、気付き 目覚めてしまったら、
私のように、なるかもしれない。
貴方の躰が 欲しいと 思うのは。
貴方を貪り 喰らいたいと 願うのは。
貴方と混じり 極上のうねりを 味わうのは。
愛でも、恋でも、繁殖行動でも無い。
もっともっと 単純に、もっともっと 利己的に。
より強き その肉体を 乗っ取って しまいたいと。
湧き上がる 欲望は、もう 抑えることは できなくて。
ワタシが 本当に 望むのは、
貴方の心なんか いらないの。
アナタの躰が 欲しいのよ。
月輪の都 『哀しみの処方箋』
2004年10月24日深い 深い 悲しみに、うち拉(ひし)がれる時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
苦しい 苦しい 衝撃に、のた打ち回る時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
暗い 暗い 独月の夜に、閉じて篭る時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
叫び 叫ぶ 壊れる 今に、哭いて泣いて 潰れる時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
余計な慰め、励まし 助言も、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
声の限りに 嗄れるまで。
力の限りに 立てぬまで。
記憶の限りに 擦れるまで。
涙の限りに 果てるまで。
心の限りに 暴露せよ。
五感の総てを 使いきり、
何も残さぬ 空虚になるまで、
一人 独りに 更けるが 良い。
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
苦しい 苦しい 衝撃に、のた打ち回る時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
暗い 暗い 独月の夜に、閉じて篭る時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
叫び 叫ぶ 壊れる 今に、哭いて泣いて 潰れる時、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
余計な慰め、励まし 助言も、
誰の言葉も 聴かぬが 良い。
声の限りに 嗄れるまで。
力の限りに 立てぬまで。
記憶の限りに 擦れるまで。
涙の限りに 果てるまで。
心の限りに 暴露せよ。
五感の総てを 使いきり、
何も残さぬ 空虚になるまで、
一人 独りに 更けるが 良い。