月輪の都 『絵巻』

2005年6月14日
薄闇の 灯火の下、
そっと 小指で 紅を 乗せ。

闇に交じらぬ 碧の黒髪、
白い手櫛が 後をひく。

しゃなり しゃなりと しな作り、
鏡の中で 微笑みを。
細めた瞳を 飾る睫は、長く 尾を引き、縁取りを。

陽の目を見ない、肌は雪。
宵に咲く 肢体は露草。
褥に侍る、命は射干玉。

紫檀に 螺鈿の蝶が舞い、
漆に 金色の鷺が行く。

玉手の箱に 閉じ込めた、私信は 届く事はなく。
色恋事を 囁くよりも、異郷の話をしておくれ。

この打ち砕かれた、足を引き摺り、何処へも行けぬ。
この眩まされた、視界を頼りに、何処へも行けぬ。
この破られた、鼓膜は鈍く、何処へも行けぬ。

この閉ざされた、座敷牢、既に、何処かすら、解らぬ場所。
届かぬ天窓、僅かな光。
指折る事も、記す事すら、想いも付かぬ、
ただただ 想うは、夢物語。

富岳の高嶺、孤高の岸壁。
青砂の浜の桜海、碧玉の淵の静寂、語っておくれ。

伏せた 瞼の裏に、描くから。
私が 独り、佇む様を。

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