目が醒めたら、きっと言おう。
目が覚めたら、きっと伝えよう。
悲しい夢を 見たんだと。
哀しき憂迷(ゆめ)を 視たんだと。

君の砂像 さらさらと、風に 波に 掠われて。
君の雪像 ゆらゆらと、朝陽に 大気に 溶かされて。
君の微笑み 欠けたる口元、
伏せた瞼の 切なさに、内腑を掴む 苦しさと。

呼吸すらも 拒絶した、動かぬ体は 鉛のようで、
君の崩れゆく、姿の前で、為す術なく 見上げるだけで。
懸命に 手を延ばしても、決して届かぬ 酷責の距離は、
足枷 食い込み、血を流し、鋼の鎖が 繋ぎとめ、
それでも 地面に 這いつくばって、
震えるこの手を 延ばす先。

食いしばった 唇に、滲んだ鉛の 苦さが残る。
激痛に 掻きむしる この胸も、消えない爪痕 紅い線。
喉は涸れて 焼き付いて、叫びも 耳に 届かない。
君が 壊れてゆく様を、唯一 自由な 泪だけ、
僕の頬に 零れて 落ちて。

それは、君を 映しただけと 思えぬのは、
砂に、雪に、なる前に、
確かに 其処には、生身の君が 佇んでいたから。

優しい声は、何時ものように。
柔らかい 眼差しは、何時ものように。
差し延べられた、華奢な 指先も、
しっとりとした その白い肌も、
流れた 豊かな 黒髪も、君は 在りし日の ままで。
僕の心に 住み続け、今も 微笑む 幻影よ。

どうして 君は、砂の海で。
どうして 君は、雪の原で。
どうして 君は、消えたのか。

崩れた 塔の上に 横たえた、君の亡骸、天へと 還る。
飛び立つ鳥に 身を任し、吹きすさぶ 風に掠われ、
積る雪に 埋もれて、君は 帰る、風葬の地へ。

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

最新のコメント

日記内を検索