奏しき 波の、 行方 知れず。
磨石の 砂瀬に 佇みて、渡る 海鳥、目指す 空。
暁の明星、白む月。

異界の風を 運ぶ 瀬戸、永の旅路に 流れ着き、
刻を 閉じ込め 横たわる。
吹かれては 舞い、攫われては 踊る、
砂(いさご)しゃらしゃら、趣 謳う。
 
境を色に 託したように、異質な 感触 主張して、
其々 何かを 告げている。

毒を 孕んだ 誘いのように、疼く 刺激は 見分けがつかぬ。
足を 浚う 波のよに、眼を 奪う 艶のよに。
羽毛の懐で 招くよに、甘言 巧みに 乗せるよに。

いざや いざやと 船 漕ぎ出でて、陸(おか)を遥かに 背にすれば、
紺碧ゆらぐ 海原は、孤高の絶海 拙い足元。
荒天 波乱は 彼方から、激しく 中空 上下して、
突如、頂(いただき)押し上げられて、
見る間に 水の絶壁が、左右を阻み 谷底へと 早変わり。

常に 死地に 臨んでも、常に 揺らぎの 舟板でも、
碧の海神、統べる国、心は とおに 奪われて、
大地よりも 長き事、この海原に 漂いて。
  
蜃気楼の 故郷(くに)のよに、
朧に見えた あの島を、再び 背にして 漕ぎ出だす。
碧の海神、ゆらゆらと、揺り籠 あやす 手のように、
心地よすぎて、眼を閉じる。

柄杓を求める 手が其処に、美声で謡う 声が其処に、
もしも、此処に あるのなら、
どうぞ、柄杓を 差し出そう。
どうぞ、この手を 差し出そう。
碧の海神、喚ぶのなら。

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