天地に跨がる、翠の空。
鏡の湖、萌える山麗、境を知らず。
模する 彩さえ ありもせぬ、秘境の伊吹 冴え冴えと。

水の世界に 横たわる、倒木すらも命あり。
最も穏やかに、最も確かな時を、走るでもなく、
停まるでもなく、添うて 移りゆく 世界。

幾ら 歩を止め、願ってみても、理 忘れて、佇んでみても、
人は 其処では 生きてはゆけぬ。
行きて 流れる 時節のように、傍観者であるしか 赦されぬ。

龍は白銀(しろがね)、大地にうねりて、輝き放ち 湛え来て、
龍は黄金(くがね)、天空満ちて 彼方より、
眩やか降りて 注ぎゆき、
龍は蒼碧(そうへき)、水面を揺らし、
滾水 流水 止水を統べて、
龍は季彩(きさい)、生命をなべて、
掌に 無限の彩を 集め持ち、
龍は悠久(はるか)、営み密かに、
清(さや)けく鎮まり 語らぬ掟。

照りて返す 絹糸の、途切れぬ流れ、雫を産んで、
冴える月下を 渡る音。
鳥は眠りて 沈み、魚は溺れて 跳ねる。
落葉漂い 船浮かべ、波紋は獣 飲み込んで。
凍える夜に 仰臥して、冥土の土産に 杯を。
余韻を演じて 蝶は落ち、墓標座する 黙した断崖。

河に産まれた 森は 生き、
山に産まれた 湖(うみ)は 生き、
天に産まれた 地の裾は 生き、
生命に産まれた 心は 逝く。

今宵、廻りて 還る魂に、月下は 眩く 荘厳に。
今宵、伏したる龍に 添い寝して、久遠を刻め 魂に。 
   

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