月輪の都 『伝信』

2004年10月10日
小さな小さな 紙切れに、君への手紙を 書き続け。
高い山に 登り来て、風船 飛ばして 届けと願う。
同じ同じ 文面を、君へと宛てて 書き続け。
広い海に 漕ぎ出して、綺麗な瓶に 詰めては離し。
紅い朱い 墨をすり、君への語りを 書き続け。
渡りを生とす 鳥の脚、そっと取り付け、北の空。

薄暗闇へと 呑まれていった 精霊舟。
祈りの劫火に 呑まれていった あの木札。
眩むような谷底に 呑まれていった 手紙の飛行機。

僕は 何時も 見送るだけで、
この手を離れた その先は、深き心に 祈るしかなくて。

寂しくなるけど、哀しくなるけど、ぐっと 唇噛み締めて、
希望の言葉を 思い浮かべて、祈るだけ。
影膳よそい、語りかける 人のよに。
無理して笑って 見送ろう。
今は誰も、見ては いないから。
風に託した 伝信を、信じ続けて ゆくために。

お元気ですか。 と、一言を。
君の名前で始まって、僕の名前で 終わる文。
お元気ですか。 と、呟きながら。
その一言しか、書けなくて。
お元気ですか。 と、言えなかった 一言を。
出会いから 別れまで、決して 言えなかった、一言を。

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