去りゆく 時の流れをば この身に受けて ひしひしと。
されど 思い返すに 早すぎて、
ついつい どこかに 置き忘れ。
 
かららん ころろん 石畳。
ちりりん ちろりん 風鈴歌。
色鮮やかな 浴衣の裾と、白いうなじが 眩しくて。
透かしの 団扇で 夕涼み。
まだまだ 浅い 夜の入り。
名残の時を 惜しむよに、 じんわり滲む 空の端。

乾いた音の 打ち水が、 子供の声に 調子をつけて、 
そろそろ 夕餉と 告げている。
 
かしゃしゃん かしゃしゃん 車輪の音に 
かりりん かららん 手鐘の合図。
暢気な面持ち 豆腐屋が、 白い涼を 売りにきて、
年季が覗く 器 片手に、 木戸 くぐる。
 
晒しの てぬぐい ちょいとかけ、真っ赤に 火照った じさまの頭、
思案顔で 睨んで捻る 将棋の駒は、 縁台 上に寝そべって、
  腹掛け 一つで 行水さなか、 赤子 無邪気に きゃっきゃと 笑う。
 
酔い酔い 千鳥、 ほろほろと、 
徳利瓢箪 ひっ下げて、 機嫌上々 帰るは おやじ。
今日の 稼ぎは どうだいね、襷の かかぁは 武蔵坊。
威勢の良さは、仲の良さ、犬も 食わぬは 口喧嘩。  
 
長屋の傍を さらさらと、流れる河に 柳がそよぎ、
長屋の上を ゆるゆると、流れる時に 眼を細め、 
長屋の跡を ゆらゆらと、流れた夢は 幻で。
  
変わらぬものを 探したら、
空に 残った 夏の月。
騒々しくて お節介、それでも どこか 暖かく、
思い出せば 目が熱い。
今は 何処を 探しても、あの 懐かしい 夏は無く、
今は 何処に 旅しても、あの 心地よい 夏は無く、
ただ、ひっそりと 月が在る。
ただ、沈黙の 月が在る。

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