しらり 朝焼け、霧 立ち昇る この時に、
川面に浮かぶ 薄い陰、
柳の船に 案山子の船頭。
ぎちち ぎちちと、 音を 立て、 押しては引いて、引きは押し、
目を凝らしてみても ぼんやりと、 ゆくか かえるか 解からぬ 進み。
一つ、 声を かけようか、 それとも このまま 観てようか。
舳先は どちらを 向くのだろ。
河は どちらに 流るのか?
岸辺は どこまで あるのだろうか?
ぱしゃり ぽしゃりと 水の音。
それは 河童か 川獺か。
 
夜の闇に 流したら、朝の霧に 帰るというて、
ずっと 此処で 待っている。
 
ワタシの 可愛い 赤ん坊、 ワタシの 愛しい 旦那様、
ワタシの 恋しい 花嫁さ、ワタシの 好きな お婆様。 
一番 綺麗な べべ着せて、一番 綺麗な 花 添えて、
一番 綺麗な 姿のままで、一番 大事な あなたを乗せて
ゆくは ゆくゆく、送りの船が、
水の弔い 葬送の、月の小船が 消えていく。
時折 流れ着くものは、見覚え しかと、添えたもの。
けれど あなたは、帰りこぬ。 けれど お前は 帰りこぬ。
待てど 暮らせど、帰りこぬ。
 
罪も 穢れも 死者さえも、流し 持ち去り、消え去って、
時には ありし命すら、呑み込む 無情、世の常か。 
流れし早川、とうとうと。
その瀬に 立ちて すくむもの、想いは 募り、固まって、
奇怪な姿の 岩となる。
  
白い小石は 幼子の、紅い小石は 早乙女の、 
黒い小石は 若武者の、蒼い小石は 長老の、
御霊たちと、伝え 聴く。
 
お前を産んだ 事 忘れ、 あなたを 愛した 事 忘れ、
君を 待った 事 忘れ、 父母への 恩恵 忘れたら、 
想いは 消えて しまうのだろか。

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