街へと 行った 子供たち。
二人で 汽車を 待ったよな。
肩寄せ合って 日暮れまで、
小さな車両を 指の数、
すまなそうに 駅長さんが、告げるまで。

肩を 落として、とぼとぼと。
あぜ道歩く 俺の背を、
ぽんと 叩いて 優しく 笑う。

「ごらんよ、じぃさま。綺麗な 月さ。帰りの道も、迷わんね。」

観れば 半月、蛍も ちらり。
聴けば 賑やか、夏の虫。

「とぉい 街より、田舎が 好きさぁ。じぃさまと 二人で歩く、
こんな 畦が、大好きさぁ。」

見慣れた筈の ばさまの顔が、
まるで 観音様に 見えてたよ。

長いはずの、待ちぼうけも、どこか のどかに 思えたのも、
短気な俺が、駅長さんに あたった時も、
何時も ばさまが 笑っていたから。
和やかに、たしなめるよに、何時も ばさまは 笑ってくれた。

「便りが 無いのが、良い知らせ。街へ 来いと 言われても、
わしらは 此処を よぉ捨てん。なぁ じぃさま、子捨て、親捨て
ままならん。まして 田舎は よぉ 捨てん。」

ばさまが そう言い、静かに 笑う。
だから 俺も 頷き一つ、静かに 笑う。

「産まれた土地で 生きてゆき、やがて 逝けるは 幸せさ。
じさまと 居れて 幸せさ。」

月が 照らす ばさまの顔に、遥かな 昔の 面影が。
鎮守の森の 樹の下で、恥じらい うつむく、乙女の顔が。

ばさまが そう言い、静かに 笑う。
だから 俺も 頷き一つ、静かに 笑う。

そっと 繋いだ 皺の手に、じんわり 伝わる 暖かさ。
このまま 道々 行けたらな。
このまま ずっと 生けたらな。
このまま やがて 逝けたらな。

無骨な 俺は 言葉を 知らん。
それでも ばさまが 汲んで くれるから。
それでも ばさまが 静かに 笑って くれるから。

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