「ああ、どうか よいお知恵を、海の判者たる 賢者様。」
『おお、これは 可憐な 末の姫。桜貝の唇が 震えているよ。』
「どうか 私を 人間に。」
『いいや、それは 無理な事。』

「ああ、どうか 御慈悲を、海の王たる お父様。」
『おお、これは 愛苦しい 末の姫。黒真珠の瞳が 濡れているよ。』
「どうか 私を 人間に。」
『いいや、それは 出来ぬ事。』

「ああ、どうか お力を、海の神たる 龍神様。」
『おお、これは 清純な 末の姫。珊瑚の肌が 尚白く。』
「どうか 私を 人間に。」
『いいや、それは 叶わぬ事。』

「ああ、どうか 魔法を、海の字引たる 魔術師様。」
『おお、これは 幸福な 末の姫。眩い光を一身に、愛され続ける 無邪気な娘。
 闇とは無縁な 高貴な姫君、何を それほど 憂いておるか』
「どうか 私を 人間に。」
『ああ、いいともさ。おお、いいともさ。白いお前に 黒い魔術を 授けよう。』
「それでも 私を 人間に。」
『可可、いいともさ。それでは どちらか 選ぶがいいさ。』
「それでは 私が 人間に。」
『いいや、人とは為り得ぬが、同じ世界に 居れようぞ。
 お前が行くか、王子を呼ぶか。
 それは お前が 選ぶが いいさ。
 
 地上に行くと いうのなら、お前は 忽ち 干からびて、
 久遠を 彷徨う 化け物に。
 海に呼ぶと いうのなら、お前は 只の石くれに、光も届かぬ 深海で、
 美しき 姿のままに 固まって、朽ちぬ墓標に 成り果てる。
 
 お前の口は 物言わぬ、閉じたままの貝の口。
 お前の瞳は 見えもせぬ、飾りままの黒真珠。
 お前の肌は 枯渇した、滅した残骸 珊瑚骨。
 さぁさ、お選び、人魚姫。
 
 理(ことわり)曲げる 外法を此処に、
 お前は どちらを 選ぶのか?
 
 人魚の肉は 不死の妙薬、外法の贄よ。
 お前の肉を 差し出すか、
 同胞(はらから)殺して 差し出すか。

 さぁさ、お選び 人魚姫。』

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